酪農コラム/ワクチンを使用した仔牛の対策事例②
お知らせ
今月も前回に引き続きカーフゲート(以下CG)でのワクチンを用いた対策事例になります。
前回のおさらいとして、RS・コロナ対策後の2015年当時のワクチンプログラムは、導入日翌日(6日齢)にRS生ワクチン、30日齢でリスポバル(マンヘミア不活化ワクチン)、90日齢でカーフウィン6(ウイルス性呼吸器病6種生ワクチン)、180日齢でストックガード(ウイルス性呼吸器病5種不活化ワクチン)でした。
当時の問題点としては2点あり、1つは離乳前後で肺炎の治療をした牛が育成舎へ移動後、もしくは除角後(70~85日齢)に再発してしまう事。2つ目は導入頭数増加に伴い過密になり哺乳期間中の肺炎頭数が増加傾向である事でした。
① 離乳前後の肺炎対策(2016年~2017年)
【リスポバル → キャトルバクト3 → カーフウィン6】
離乳前後の肺炎対策としてまず始めに、定期的にモニタリングしていた鼻腔スワブ検査において採取できていた細菌について対策する事とにしました。
細菌性不活化ワクチンのリスポバル(Mh)から同じ細菌性不活化ワクチンのキャトルバクト3(Mh、Pm、Hs)1ml2回接種に変更しました。しかしながら肺炎発症頭数の減少には至らず、CGにおいては鼻腔スワブ検査で採取はできるが日和見感染程度で、肺炎の直接的な起因菌ではないと判断しました。
次に行ったのは細菌でなければウイルスではないかと考え、90日齢で接種していたカーフウィン6を前倒しして30日齢で接種しました。その結果、離乳前後の肺炎頭数・治療日数の減少がみられ育成舎での再発も減少しました。
今回も移行抗体によるワクチンブレイクの損失より、肺炎が多発する時期(CGでは離乳前後)の2~3週間前に接種することを重要視したことで良い結果が得られたと思っています。
② BVD(牛ウイルス性下痢)への対策(2017年)
【 ストックガード → ボビバックB5 】
当時の十勝管内ではBVDのPI牛(持続感染牛)増加が問題となっていて、BVD対策を強化するため180日齢で接種するストックガードをボビバックB5へ変更しました。詳細としてはカーフウィン6等のBVD1-a型タイプのワクチンを接種すれば交差免疫でBVD1-b型の抗体価も少しは上がっていたのですが満足いくレベルではなかったため、BVD1-b型が唯一入っているボビバックB5へ変更しました。
カーフウィン6とボビバックB5のセットに変更した後はBVD1-a、1-b型ともに満足いく抗体価まで上昇するようになりました。
(※BVD2価ワクチン:カーフウィン6等はBVD1-a、2-a型タイプ:ボビバックB5はBVD1-b、2-a型タイプ )
③ 哺乳期間中の更なる肺炎減少対策(2018年~2019年)
【 RS生ワクチン → TSV-2 → カーフウィン6 】
①の対策後、90日齢で接種するカーフウィン6までのRS対策として接種していた導入日翌日接種のRS生ワクチンがあまり意味を持たなくなっていたので変更を考えました。
まずはTSV-2(鼻腔粘膜ワクチン)に変更し、インターフェロン誘導物質による移動・群飼ストレスへの対策も含めて肺炎及びロタ下痢症の減少を期待しましたが、有意な変化は見られませんでした。そこで①対策で効果があったカーフウィン6を導入日翌日に接種することでウイルス対策を強化した結果、哺乳中・離乳前後・育成舎移動後のすべてのステージで肺炎頭数が減少し、RSの大流行防止も継続できました。
(※当時、TSV-3は未発売)
― まとめ ―
現在のCGのワクチンプログラムは以下の通りです。
長年試行錯誤しながらワクチンプログラムを変更してきたなかで、
【 生ワクチン1回接種 = 不活化ワクチン2回接種 】が同等の効果として捉え、疾病好発時期の2~3週間前までに予防したい疾病に合うワクチンを接種することで大きなメリットを得られると感じています。
移行抗体残存期間のワクチン接種も生・不活化、ウイルス性・細菌性を問わずに一度現場で試してみる価値はあると思います。
また、ワクチン代金として目に見える経費は気になるところですが、ワクチンで対応できる疾病については可能な限りワクチンで防御することで、治療費や治療に伴う労働時間も削減できます。ひいては牛と飼養者の精神的ストレスの軽減につながり、最終的には両者の生産性向上に結び付くことになると思います。
次回からはCGに視察に来られた方から多く頂く質問について予定しています。