酪農コラム/コクシジウム症について
コラム
~ はじめに ~
コクシジウム症といえば、真っ赤な鮮血便が特徴的な下痢症で、発症すると削瘦がひどく、元の体重に戻るのに1-2ヶ月を要して発育遅延を引き起こします。
環境中のコクシジウムが経口感染すると、腸管内寄生が成立しますので、発症牛から同居牛→隣接する群→牛舎全体へと感染が拡大します。
したがって、個体の治療と感染拡大予防のための群または牛舎単位の対応が求められます。
- 早期発見 -
コクシジウム症の好発月齢は1ヶ月齢~3ヶ月齢で、分娩房や哺乳牛の飼養場所が濃厚汚染されている環境下では2週齢ぐらいでも発症します。
単飼から群飼、離乳、牛舎の移動、除角、暑熱寒冷ストレス等の様々なストレスが引き金となり発症に至ります。
感染してから発症するまでに1~2週間の腸管内での潜伏増殖期間があり、この期間中にも軟便、被毛の失沢、食欲・活力の低下、軽度の脱水を示しますので、群単位で観察して上記のような変化が見られれば早期に糞便検査を実施します。
- 早期発見 -
コクシジウム症の感染、発症予防としては、以下の方法があります。
1.抗コクシジウム剤
バイコックスやベコクサンといった商品は一度給与すれば1ヶ月程度発症を予防する事が可能です。
この期間にコクシジウムに対しての免疫を獲得できれば、薬効が切れた後も自己免疫で対処できます。ですから、ある程度のコクシジウムの感染と腸管内での増殖が必要で、あまりにも早い日齢での給与は十分な免疫を獲得できない可能性があります。
予防と免疫獲得の両方を目指すのであれば、好発時期の1週間前の給与になります。
2.サルファ剤
ダイメトンやエクテシンといったサルファ剤はコクシジウムの限られたステージしか効果がないので、3日~5日間の投薬を1クールとして3~4クールの投薬が必要になります。サルファ剤の長期間の連続投薬は腎機能障害などを引き起こしますので、休薬期間を設けて使用します。
カーフゲートでは、作業の簡易化も考慮し、月火水に投薬、木金土日を休薬期間として離乳前に3クール行ないコクシジウム症の発症牛を減少させる事が出来ました。
3.モネンシン入り飼料
モネンシンという製剤にはコクシジウム等のグラム陽性球菌と呼ばれる種類の菌の増殖を抑制する効果が有るとされています。
カーフゲートではモネンシン入りのスターターと育成配を使用しており、使用実感として3ヶ月齢の牛で1.5㎏、6ヶ月齢で1kg以上摂取した牛群で血便等を伴う下痢の発症が抑制されています。
注意する点としては、モネンシン入り飼料から通常飼料に切り替える時に、軟便等になりやすいので時間をかけて徐々に切り替える必要があります。
- 治療方法 -
コクシジウム症の治療方法としては、抗コクシジウム剤、サルファ剤に加えジメトキシン注などを用いながら、個体治療と群予防を同時に行うために獣医師と連携して対処して下さい。2次感染予防として抗生剤の使用や、腸管リカバリーのための生菌剤の使用も治療の一助になります。
- おわりに -
今回はコクシジウム症についてでしたが、実際のところ一番の対策になるのは環境中のコクシジウム自体を減らす事です。そのためには、哺乳器具を清潔にする、分娩房やハッチ等の床替えの回数を増やす、牛舎の洗浄・消毒といった基本的な対策が効果的です。
昔のカーフゲート哺乳舎(3ヶ月齢未満)では、サルファ剤を3クール実施してもコクシジウムの発症牛はゼロには出来ませんでしたが、牛舎の洗浄・消毒を実施してから減少しはじめ、石灰塗布も実施してからは発症牛も出なくなり、現在では予防方法①②③のすべてを使用していません。育成舎に移動してからの3ヶ月齢から6ヶ月齢まではモネンシン入り飼料を使用していますが、農場全体で5年以上にわたってコクシジウムの発症牛ゼロを維持しています。
コクシジウムのためだけの床替え回数の増加や牛舎洗浄・消毒であれば大きな作業負担になりますが、サルモネラ菌や大腸菌、マイコプラズマやクリプトスポリジウムといった多くの疾病対策にもなりますので、まずは環境衛生対策から始めてみて下さい。
最後になりますが、仮にコクシジウム症対策が成功して発症牛が減少した場合に、今までコクシジウムの陰に隠れていたクロストリジウムや一般線虫などが増殖する可能性が高くなり新たな問題を引き起こす事があります。一点集中で対策した後によく起こることなので、この様なことが起きないようにクロストリジウムには枯草菌(B-act、モルッカ等)、一般線虫には駆虫剤(イベルメクチン製剤:アイボメック、イベルメック等)などの対策も同時に行うことをお勧めいたします。
次回は、サルモネラ症についてです。