獣医/肢蹄病の原因と予防(3)- 肢(あし)の病気について
コラム
2ヶ月間にわたり『肢の病気』について解説してきました。なぜ肢の病気から本コラムに掲載し始めたかというと、DDや蹄底潰瘍ほど注目されないものの大きな経済損失を生むため、注視して欲しいという思いからです。蹄の病気における経済損失については2024年4月のコラムにて掲載しましたが、肢の病気にまつわる経済損失についても以下に掲載していきます。
––– 肢の病気がもたらす経済損失 –––
肢の病気については『飛節外腫』と『蹄冠の腫脹』について触れてきましたが、病状の進行度合により生産性に影響を与える程度が異なります。では、病状の進行度合いを測る『ものさし』を調べてみると『飛節スコア』、『蹄冠スコア』というスコアリング方法があります。
上図を参考にスコアリング → 飛節スコア/蹄冠スコアを用い、産次別に繁殖成績の経過を追ったデータが以下になります(その他疾病があった牛はデータから除外)。
上図は以下のデータを比べた結果です。
・飛節スコア+蹄冠スコア が 3以下の牛
・飛節スコア+蹄冠スコア が 6以上の牛
この結果を見ると、スコア合算値が3以下の牛では初回授精日が90日以内である一方で、スコア合算値が6以上の牛では初回授精日が延長していることがわかります。また、下図に示すように初回授精日の延長だけでなく、分娩間隔も延長していました。
各産次における分娩間隔の延長は40〜120日と差がありました。これまで分娩間隔が1日延長した場合の経済損失額は1,500〜1,800円と言われてきましたが、この数年の輸入飼料高騰により2,000円を超える事例も見られます。そのような牧場では分娩間隔が40日間延長した場合、1頭当たりの経済損失額は以下の試算となります。
*40日 × 2,000円 = 80,000円
また、上図を見ると、飛節スコア+蹄冠スコアの合算値が6以上の牛では5産目以降在籍していない事がわかります。これはスコア合算値が6以上の牛では以下の理由で淘汰されていたためでした。
・起立難渋
・起立が不安定で乳頭を踏み乳房炎/搾乳困難
過去の報告を見ると、飛節外腫やフレグモーネで蹄冠が腫脹している牛は以下の理由による経済損失も指摘されています。
・長期的な乾物摂取量低下(=飼料摂取量低下)による乳量低下
・淘汰率の上昇
肢の病気に関して実際にどれだけの経済損失が起こっているかは、農場の経営方針/牛舎構造/牛の耐用年数により様々だと思います。もし、肢の病気が散見され経済損失が大きい場合には、先月までのコラムに記載した原因と照らし合わせてみてください。一つでも多く農場での改善点が見つかり、経済損失を低減できる事を願っております。
(文責:牧野 康太郎)
― 参考資料―
(1) Effects of health disorders on feed intake and milk production in dairy cows
(2) Effect of Lameness on Culling in Dairy Cows