酪農コラム/牛サルモネラ症について
コラム
~ はじめに ~
カーフゲート(以下CG)がある十勝地方において、数年前から増加傾向にあるのが、牛サルモネラ症です。本症は大きく分けて届出伝染病に指定されている4種類と、それ以外の2,500種類以上のものに分類されます。
CGは哺育育成牧場であることから、受け入れる導入仔牛は全頭サルモネラ菌の着地検査を実施しており摘発したこともありますし、すり抜けてしまい農場全体に蔓延した経験もあります。
本症の届出伝染病に該当する菌が確認された場合は、最寄りの家畜保健衛生所、NOSAI、地元自治体、農協等と対策して頂くのが最良であると考えますので、発生後の治療方法、消毒方法、検査スケジュール等には触れません。
今回は2種類の届出伝染病を数回にわたって経験した事をもとに、日々の管理で改善した点や注意している点について書かせて頂きます。
1.作業動線の明確化
日々作業する中で、タイヤショベルやトラクター等を使用すると思いますが、飼槽やバンカーサイロ等で作業するクリーンな機械と、除糞関係で使用する機械の作業動線が極力交わらないように作業手順を見直し、どうしても交差してしまう場所については消石灰帯として管理するようにしました。このことにより農場内での不必要な菌の拡散を防止しています。
2.野生鳥獣対策
ネズミやカラス等はサルモネラ菌を保菌している個体もいますので、農場内への侵入を防ぐことにしました。カラスやキツネが牛舎に侵入できないようにトリカルネットと横引きナイロンネットを設置し、ネズミが潜伏していそうな場所に粘着シートなどのトラップをしかけることにしました。現在、粘着シートなどの設置・回収は専門業者に委託して毎月交換・回収してもらっています。
3.消毒薬の統一性
踏み込み消毒槽や牛舎の消毒、場内出入口などに消毒薬を使用する場面がありますが、消石灰を使用する場合には踏み込み消毒槽などに使用する薬剤の選択に注意して下さい。消石灰などはアルカリ、または強アルカリ性を保って菌の増殖を抑制するもので、ビルコンSやクレンテ等の酸性域の消毒薬と相性が悪いのです。消石灰がついた長靴でビルコンSの踏み込み消毒槽に入っても互いのPHを打ち消しあい効力が低下してしまいます。
4.着地検査日の見直し
CG設立当初の着地検査は導入日に採材を行っていましたが、何度か摘発できなかったことがありました。これは導入日に採材している便は1~2日前に口に入った物であり、導入日前日の感染または集荷時に家畜車の中で接触感染したことが反映されていない事が原因でした。現在では導入日の翌々日に採材を変更してからは着地検査本来の役割を果たしています。
~ おわりに ~
最近のサルモネラ症は季節に関係なく一年中発生するようになったと感じていますし、発症後の投薬効果も悪くなったと思います。
サルモネラ症が発生すると発症牛の隔離・投薬、同居牛もしくは農場すべての牛の採材・検査、牛舎消毒、牛の移動制限による頭数増などにより作業負担が増加します。
早期に清浄化するためには初動が重要で、関係機関等にも出役して頂き採材・消毒・隔離を素早く実施することです。対策期間が長期化すると労力と費用が大きくなりますし、精神的にも疲弊してします。
このような事にならないためにも、私はサルモネラワクチンの接種をお勧めします。
中札内村では15年程前から全酪農家を対象に年一回のワクチン接種を実施しており、接種開始後には発生農場も減少してCGでの摘発も減少しました。
親牛へのワクチン接種は乳量減などのリアクションもありますが、毎年続けることでリアクションも小さくなります。一時期のワクチンが欠品していた時期は着地検査で摘発する仔牛も増えましたが、ワクチン接種再開後にはすぐに減少しました。
このことから、親牛にワクチン接種することで感受性の高い仔牛を守ることが出来ますし、ひいては自身の農場全体を守れることにも繋がります。
本症のような外部からの侵入要素についても考慮が必要な場合は、個人単位での対策にも限界があります。地区単位・市町村単位での対策がより高い予防効果を上げると思います。本気でサルモネラ症の発生を減少させるためには上記の単位でワクチン接種に取り組み、実施継続していくことが重要ではないかと考えます。
次回からは肺炎関係についてを予定しています。